漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
12.
皮膚の疾患
文献
石 岡忠夫. 老 人性皮 膚ソウ 痒症に 対する 六味丸 と八 味地黄 丸の薬 効比較. Therapeutic
Research 1995; 16: 1497-504.
MOL
, MOL-Lib1. 目的
老人性皮膚掻痒症に対する六味丸の効果を八味地黄丸と比較すること 2. 研究デザイン
ランダム化比較試験 (cross over) (RCT-cross over) 3. セッティング
特別養護老人ホーム 4. 参加者
老人性皮膚掻痒症と診断され、ほとんど連夜掻痒感のある入所者が対象。男 9 名、女
22名、計31名。62-95歳 (平均年齢は77.5±9.4歳) 5. 介入
Arm 1: 六味丸先行群。ツムラ六味丸エキス顆粒7.5g分3で食前または食後に2週間投
与。その後ツムラ八味地黄丸エキス顆粒に変更し7.5g分3で食前または食後に
2週間投与。男4名、女11名
Arm 2: 八味地黄丸先行群。ツムラ八味地黄丸エキス顆粒7.5g分3で食前または食後に
2週間投与。その後ツムラ六味丸エキス顆粒 7.5g分 3で食前または食後に変更
し2週間投与。男5名、女10名 6. 主なアウトカム評価項目
痒みの重症度の変動を 2 週間後、4 週間後を判定。重症度は、掻痒感で睡眠障害あり
(+++) 、我慢できないが眠れない程ではない (++) 、何とか我慢できる (+) 、気になる程
度 (±) と4段階評価。
総合判定として、投薬前の重症度に関わらず、症状が全く消失したものは「著効」、明
らかに改善したものは「有効」、少しでも改善したものを「やや有効」、改善なしを「無
効」、症状増悪を「悪化」とした。体力の有無でも総合判定 7. 主な結果
総合判定は、六味丸では著効17名 (56.7%) 、有効6名 (20.0%) 、やや有効1名 (3.3%) 、
無効4名 (13.3%) 、悪化2名 (6.7%) で、有効以上は23名 (76.7%) 。八味地黄丸で著効
18名 (60.0%) 、有効6名 (20.0%) 、やや有効2名 (6.7%) 、無効4名 (13.3%) で、有効以
上は24名 (80%) 。両薬に有意差は認めなかった。体力あり群12名について両薬を比
較すると、六味丸による著効8名 (66.7%) 、有効3名 (25.0%) 、やや有効1名 (8.3%) で、
八味地黄丸では著効4名 (33.3%) 、有効5名 (41.7%) 、無効3名 (25.3%) と、六味丸に
著効例が多く有意差を認めた (P<0.05) 。体力なし群18名では、六味丸による著効9名
(50.0%) 、有効3名 (16.7%) 、無効4名 (22.2%) 、悪化2名 (11.1%) で、八味地黄丸では
著効14名 (77.8%) 、有効1名 (5.6%) 、やや有効2名 (11.1%) 無効1名 (5.6 %) と、八味
地黄丸に著効例が多く有意差を認めた (P<0.05) 。 8. 結論
老人性皮膚掻痒症に対する六味丸と八味地黄丸の効果については差がない。体力のあ
る群では六味丸に、体力のない群では八味地黄丸に著効例が多い。 9. 漢方的考察
一般的な体力の有無と漢方でいう実と虚は必ずしも一致しないが、対象者の体力の有
無は風船バレーのプレーで決定され、これは漢方エキス製剤の臨床評価ガイドライン
の虚弱体質等のエントリー・クライテリアにほぼ一致する、と著者は記述している。 10. 論文中の安全性評価
六味丸投与群に悪心による脱落者1名。解析に含まれていない。 11. Abstractorのコメント
同著者による八味地黄丸 RCT (石岡忠夫, 靑井禮子. 老人性皮膚ソウ痒症に対する八味
地黄丸とフマル酸ケトチフェンの薬効比較. 新薬と臨床 1992; 41: 2603-8.) の発展的試
験。前試験同様wash outはなされていない。ITT解析でなく、症例数が少ないため、結
果に影響を及ぼした可能性がある。研究のさらなる発展を期待する。 12. Abstractor and date
鶴岡浩樹 2008.4.12, 2010.6.1, 2013.12.31